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子育て応援賃貸マンション「ネウボーノ」好調な稼働率の背景にある想いとコンセプトそしてSNS戦略とは?

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2025.10.31

都市部の賃貸不動産市場は競争が激しく、入居者獲得のための差別化戦略や顧客への新しいアプローチが求められている。三井不動産レジデンシャルリースが事業をサポートする子育て応援賃貸マンション「ネウボーノ菊川」「ネウボーノ菊川Ⅱ」(以下、総称してネウボーノ)は高稼働の状態が続いている。

賃貸不動産市場では一般的に広く募集を行い多くの入居希望者に物件情報を届けることが常套手段であるが、ネウボーノはあえて想定入居者層を子育て世帯に限定、更に案内できる仲介会社を限定しながらも高いパフォーマンスを発揮している。ネウボーノを運営する株式会社萬富(以下、萬富)は、江戸時代後期の弘化2年に創業した東京都中央区日本橋室町に本社を置く不動産会社。

同プロジェクトはどのようにして生まれ、社会的意義と事業性をどのように両立したのか。ネウボーノの受託担当者であるプロジェクト営業二部(取材当時)の中野裕一郎が、萬富の代表取締役である小山 敦氏にプロジェクト成功の秘訣や、これからの時代の賃貸マンションに求められるだろう企画・運営の裏側を聞いた。

「子育てを応援する賃貸マンション」というコンセプトが生まれた経緯と込められた想い

中野:まず、私からネウボーノのご紹介をさせていただきます。ネウボーノは都市部の子育て世帯を応援したいという想いの元、「子育て応援賃貸マンション」というコンセプトにもとづいて、建物内にキッズスペース等の空間を提供、また空間を提供するだけでなく、保育士の資格を持つ管理人を配置し、託児サービスが利用できるなど子育て世帯をサポートする体制を整えた賃貸マンションです。管理人を中心に住民の子育てコミュニティが根づいています。

キッズスペースの他にも砂場や菜園が併設された「キッズガーデン」などがあり、菜園では野菜の苗植えから収穫までの体験をすることが可能です。

また各住戸は壁や柱に角がなく、扉や窓には指挟み防止ストッパーがついているなど小さいお子様の安心・安全に配慮した仕様になっています。その他にも対面式キッチンや豊富な収納スペースなど、子育て世帯の暮らしやすさを追求したルームプランです。

小山:「子育て応援」というコンセプトは、個人的な経験から生まれました。育児に苦労したり、近くに頼れる人が少なかったり、自分自身が子育て世帯にありがちな課題に直面したことがきっかけとなり、自社が展開する不動産事業でも子育てに関連するサービスを提供できないかと考えたことがきっかけです。

単に「住む場所」を提供するのではなく、子育て世帯の日々の悩みや不安を解消できるような「環境」を作りたいと思っていました。

株式会社萬富 代表取締役 小山 敦氏

中野:そのコンセプトをお聞きしたとき、ネウボーノは従来の賃貸マンションとは異なる、社会的なニーズに応える新しい形の賃貸マンションだと思いました。

プロジェクト営業二部 プロジェクト営業課(取材当時) 中野裕一郎

小山:この想いを形にするにあたり、約100人の子育て世帯にアンケート調査を行いました。「子育てにおいて何が一番負担か」「都市部のマンションでの子育てで困っていることは何か」「子育てにおける負担に対してマンションにどういった機能があれば解決できるか」といった質問をして、ニーズを詳しく把握しようとしたのです。その結果「日常生活の中で話し相手がいない」ことや「何か起こった時に相談できる人が近くにいない」といった悩みが多いことがわかりました。

これらの声を元に、コミュニティ形成を重視し、マンション内で日々のちょっとした相談や会話ができる環境を整えることにしました。

賃貸管理は「受動的」から「能動的」へ

小山:ネウボーノ菊川(1棟目)は開発から管理まですべて当社で行っていました。それがうまくいったことで2棟目の計画が始まりましたが、2棟合わせて100戸以上になると、当社の規模では管理が難しくなります。そこで、以前からお付き合いのあった三井不動産レジデンシャルリース(以下、リース)さんに声をかけ、一緒にやっていただくことにしました。リースさんであればこれまでのお付き合いを通して「オーナー側の想いや意図を汲んだ賃貸マンションの管理・運営を実現してくれるだろう」という期待があったからです。

また、このプロジェクトを通じてリースさんに子育て応援賃貸マンションの運営ノウハウを蓄積していただくことで、将来的には他の地域でも同様のプロジェクトを展開するビジネスパートナーになってもらうことが可能なのではという期待もあります。

「ネウボーノ菊川Ⅱ 」外観

中野:ネウボーノの管理・運営のご依頼をいただいたときは、「子育て応援」と言う想いやコンセプトに共感しながらも、戸惑いもありました。当社では過去にご入居者様を子育て世帯に限定したうえで、コミュニティの形成を図りながら賃貸マンションを運用した経験や事例はなく、他のオーナー様からもご相談を頂いたことのない事例でした。その為萬富様がネウボーノ菊川(1棟目)の竣工から約5年間、自らネウボーノで育んできたコミュニティやそのノウハウを維持・発展させることができるのか、という不安がありました。

小山:ネウボーノではシェアハウスのように、ご入居者様同士が育児の悩みや楽しさを共有できるコミュニティの形成に重点を置いています。実際にご入居者様同士のコミュニティが形成されることで満足度が上がり、結果として高い稼働率を維持していると考えています。

一般的な賃貸マンションの管理は、主にご入居者様からの様々な申し出に対応する受動的な仕事となります。しかし、ネウボーノでは貸主側が空間(キッズスペース等)やソフトサービスを能動的に提供することでコミュニティの形成を図っています。こう言った管理の形は、リースさんの中でもあまりやられてなかった事業だと思います。

その為、リースの社長さんにも、ネウボーノの想いやコンセプトを直接お伝えして「既存の賃貸管理の枠組みに組み込んで管理をするのではなく、新しいサービスに取り組む気持ちで一緒にネウボーノの管理を受託していただけないか」と当時依頼をしました。

「ネウボーノ菊川Ⅱ」のキッズスペース。子育て・保育の専門資格を持つ管理人に子どもを預けられる託児サービスも提供。

中野:ネウボーノで菜園の苗植えイベントが開催された際に私も参加させていただきましたが、賃貸住宅の管理会社に入社してスコップを持って畑を耕すことになるとは思っていなかったです(笑)。私自身、担当している物件におけるご入居者様とのコミュニケーションではマイナスの評価を受けない様、どちらかと言えば消極的に仕事を進めることもありました。しかしネウボーノの管理を通して、今後の賃貸住宅の管理は、オーナーや管理会社側から積極的にホスピタリティ等を提供していくことが、新たな価値となるのではと考えるようになりました。ネウボーノの管理受託後、社内でも様々なコンセプトを持った物件の管理にチャレンジしていこうという機運の高まりも感じます。

SNSなどを活用した「子育て世代」への新しいアプローチ

小山:ネウボーノ菊川(1棟目)では「ひよこクラブ」(出版社:株式会社ベネッセコーポレーション)という育児雑誌に広告を掲載する等、不動産を探している人だけでなく、子育てに関心のある人たちに直接アプローチする方法を試みました。ネウボーノ菊川Ⅱ(2棟目)のリーシングではリースさんと一緒に、従来の不動産ポータルサイトだけでなく、SNSを活用した情報発信にもチャレンジしました。特に若い世代は、インスタグラムやX(旧Twitter)で情報収集をする傾向があります。実際に「子育て」というキーワードから入ってきて、ネウボーノにたどり着き、ご入居頂くケースも多々あります。

中野:入居者募集に関しては、グループの仲介会社であるレジデントファースト株式会社と協力して、SNSの活用など従来の方法にとらわれない新しいアプローチを試みた他、ネウボーノのリーシング専属チームを作り、ネウボーノに興味を持って頂き、内覧にお越しいただいたお客様に対して物件の特徴や魅力を存分に伝えられるように工夫をしています。そう言った新しい試みも功を奏し、ネウボーノ菊川Ⅱ(2棟目)では全73世帯、すべて子育て世帯で満室稼働を2024年12月に実現することができました。ご入居者様の多くがネウボーノのコンセプトやサービスに惹かれ、このマンションで子育てをしたいと契約していただいたことは本当に嬉しかったです。

小山:ネウボーノ菊川Ⅱ(2棟目)のご入居者様の約7割が墨田区外からの申込でした。中には海外からの転勤者もいらっしゃいます。区外からの申込検討者は東京と言う大きな賃貸住宅マーケットの中でネウボーノのコンセプトに共感していただき、他のエリアや他の物件と比較をすることなく契約まで進んだケースも多くありました。

中野:「駅から何分、家賃いくら」という住まい探しの基準の他に、子育て応援という「コンセプト」で住まいを選ぶという新しい消費行動を目の当たりにしました。これは不動産業界全体にとっても、新しい可能性を示唆しているのではないかと思います。

社会性と事業性を両立するコスト面の工夫

小山:このプロジェクトでは、想いとコンセプトを守りつつ事業性を確保することも重要な課題でした。確かに「子育て・保育の専門資格を持つ管理人」など通常の賃貸マンションでは発生しないコストがかかります。一方で、提供している空間やサービスを賃料に反映することで事業として十分にやっていける実績も作ることができました。また今後、複数の物件でネウボーノと同様のサービスを展開することで、コストの分散も図れるのではと考えています。

中野:我々管理会社も土地の有効活用を検討されているお客様に対して、国や自治体の補助金制度の活用を提案したり、ネウボーノで提供するサービスを更に最適化したりすることで、高い収益性能での賃貸マンション事業を提供したいと考えています。

小山:例えば、国土交通省や東京都の子育て世帯向けの賃貸住宅オーナー等を対象とした補助金制度を活用することで、初期費用の圧縮ができます。ネウボーノ菊川Ⅱ(2棟目)ではリースさんより国土交通省の補助金制度の活用を提案していただいたことで事業に関する初期費用を圧縮することができました。

中野:一方で、収益性能の向上ばかりに目が向いてコスト削減に重きを置きすぎることで本来のコンセプトが失われないよう、バランスを取ることも重要だと考えています。提供する空間やサービスについて取捨選択をしながら最適化を行い、想いやコンセプトの実現と収益性能を両立させることが中・長期的な競争力につながると考えています。

小山:コストと価値のバランスを取ることは非常に重要だと感じています。実際にネウボーノでは十分事業性能を確保することができていますので、この姿勢を崩さずによかったと思っています。

三井不動産レジデンシャルリースのサポート体制とチャレンジ精神

小山:リースさんのサポートには非常に満足しています。ネウボーノの管理をリースさんにお任せした当初は入居希望者の内覧時に当社の社員も一緒に案内をしていたのですが、すぐに我々の想いを理解して、ネウボーノの魅力を存分に伝えてくれるようになっていました。また、SNSを活用した認知度向上の取り組みなど、新しい挑戦にも積極的に取り組んでくれています。

中野:ありがとうございます。SNSを活用した取り組みは広がりつつありますが、まだまだ開拓の余地があると考えています。引っ越しを検討しているお客様から見ると、不動産ポータルサイトは物件の情報数は豊富です。しかし、掲載されている各物件が持つ物件毎の魅力を受け取るには最適化されていないと感じています。SNSは各物件が持つそれぞれの魅力を伝えるにはとても適したツールだと考えています。

コンセプトを守り抜くことがプロジェクト成功の秘訣

小山:このプロジェクトの成功要因は、明確なコンセプトと、そのコンセプトを体現するための空間づくりとサービス提供が実現できたことにあると思っています。子育て世帯の本当のニーズを理解し、それに応える空間とサービスを提供できたことが、成功につながったと考えています。

また、リースさんとの関係性も成功の大きな要因です。我々のビジョンを理解し、それを実現するために尽力してくださいました。

中野:私たちも、このプロジェクトを通じて多くのことを学ばせてもらっています。賃貸住宅という「箱物」の管理をする会社から脱却し、「住む」と言う「体験」をより良いものにするためのコンセプト作り、そしてコンセプトを守りながら事業性能を向上させていく、と言う一連の流れを経験することができたことは貴重な財産です。今後は、この経験を活かした提案をしていきたいと考えています。

小山:先日も関西圏の地方自治体から十数人がネウボーノの視察に来られました。地方自治体の他、不動産デベロッパーも子育て世帯の課題解決に取り組みたいという潮流を感じます。

世の中のニーズと社会的意義がある事業なので、様々なプレーヤーがこの事業領域に参画することで、より多くの子育て世帯の課題が解決できるのではないかと期待しています。

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