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海外「不動産テック」最前線。AIは賃貸不動産業界をどう変えるのか?

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2026.07.28

AIやテクノロジーの進化は、賃貸住宅市場においても、加速度的に進んでいる。とりわけ米国・シリコンバレー周辺では、業界構造そのものを変革するような不動産テックが次々と誕生している。 

本企画では、現在スタンフォード大学に在籍し、現地の最前線でテクノロジートレンドをリサーチする三井不動産株式会社 イノベーション推進本部 ベンチャー共創事業部の中村 太郎氏と、日本国内で賃貸マンションの運営管理に携わり、現場の課題と向き合う三井不動産レジデンシャルリース株式会社 賃貸運営本部 事業法人部の平船 陸による対談を実施。

中村氏が選んだ「最新不動産テックサービス」を切り口に、日米の市場比較から、日本の賃貸ビジネスにおけるAI活用のあり方を紐解く。

日米の賃貸マーケットの現状と変化

──中村さんは、現在の米国の賃貸マーケットの状況をどのように感じていますか?

中村 太郎氏(以下、中村):米国の賃貸不動産市場は、日本と大きく異なる特徴を持っています。まず、一般的には契約期間が1年単位と短く、契約慣行として更新時に賃料を引き上げやすい点です。例えば私が住んでいるカリフォルニア州などは、賃貸住宅の供給不足が深刻化しており、特にサンフランシスコやシリコンバレー周辺のような供給制約の強いエリアでは毎年5〜6%ほど賃料が上昇していく傾向にあります。

また、米国のビジネスパーソンは2〜3年ごとに転職や転勤で都市を移動する傾向が強く、大学や企業に集まる外国人も多いため、賃貸住宅の流動性が高く、需要も高い状態が続いています。分譲住宅価格の高騰と金利上昇により「住宅を買いたくても買えない」層が賃貸住宅市場に留まっていることも、活況の背景にあります。

一方で、入居者様側から見れば、家賃が高騰しすぎて給料の半分以上が飛んでいくようなケースもあり、所得にしめる家賃負担の大きさが社会問題化している側面もあるのが実情です。

三井不動産株式会社 イノベーション推進本部 ベンチャー共創事業部 中村 太郎氏(取材当時)

平船 陸(以下、平船):日本とアメリカの明確な違いは、「借地借家法」によって入居者様が保護されている点にあります。日本では正当な事由なく賃料を急激に引き上げることはできません。契約更新で賃料を上げるにしても、しっかりと交渉したうえで納得いただく必要があり、長期居住を前提とした安定した市場環境が維持されています。

「流動性の高さ」と「賃料設定の自由度」が、日本と比較した米国の特徴と感じます。市場の反応に対して非常にシビアなのが米国ですね。

──そうした米国の賃貸住宅市場の中で、AIなどのテクノロジーはどのように浸透し始めているのでしょうか。

中村:米国では、大企業が大規模に賃貸物件を所有して運用するケースが多く、管理業務の効率化に対するテクノロジー投資が積極的です。最近の構造変化の特徴は、管理会社の業務そのものをWebサイトのプラットフォームが代替し始めている点です。

例えば、米国の不動産ポータルサイト「Zillow」などは、入居希望者様の申し込み時にクレジットスコアを用いたバックグラウンドチェックを自動で行うほか、オーナー様が物件を募集する際の賃料推定・参考価格提示までもシステム側が自動で行います。従来は管理会社が担っていた業務がデジタルに置き換わり、管理会社の役割が限定的になりつつあるという変化が起きています。

──日本の賃貸マンションの運営管理の最前線にいる立場として、日々オーナー様や入居者様と向き合う中で、管理会社の役割とDXの必要性をどう感じていらっしゃいますか?

平船:日本では、逆に管理会社の役割がより重要になってきていると感じます。賃料上昇の局面であっても、「本当にいま賃料を上げて退去されないか」「入居中の修繕や原状回復工事のコストは妥当なのか」といったオーナー様の不安に対し、管理会社にはしっかりとした根拠の提示と説明責任が求められます。

賃貸経営が高度化し、情報格差が広がる中で、間に入って安心感を提供するのは人間ならではの役割です。だからこそ、私たちが介在する価値をさらに高めるために、煩雑な業務や入居者様からの問い合わせ対応などをDXで徹底的に効率化し、リソースを再配分する必要性を強く感じています。

三井不動産レジデンシャルリース株式会社 賃貸運営本部 事業法人部 平船 陸(取材当時)

賃貸不動産業界を変える、最新不動産テックサービス

──今回、中村さんには最新の不動産テックサービスとして、「Brickwise(ブリックワイズ)」と「Argen」を挙げていただきました。数ある不動産テックサービスの中から、なぜこれらに注目されたのか、その理由を教えてください。

中村:ChatGPTの登場以降、国と国の間の「言語の壁」をAIで越えるスタートアップが続々と登場しています。例えばAIによる翻訳は、海外のサービスを、完璧な日本語に対応させられるレベルに達しています。 私は米国で投資先を探す際、「国境を越えられるか」「不動産業界を熟知しているか」「日本のマーケットに合わせて柔軟にローカライズできるマインドセットがあるか」という3つの基準を重視しています。今回紹介する2つのサービスは、まさにその条件を満たし、不動産業界の深い課題をAIで実用的に解決しようとしています。

①「Brickwise」24時間365日、音声AIが修理手配を完結させる未来

(デモ画面)

中村:「Brickwise」は、管理会社のコールセンター業務を完全に代替する音声AIエージェントです。世界で最も有名なスタートアップ養成機関「Y Combinator」にも採択され、すでにイギリスやドバイ、米国で導入が進んでいます。 例えば、入居者様から「換気扇がおかしい」と電話がかかってくると、AIが人間と区別がつかないほど自然で丁寧な日本語で状況をヒアリングします。それだけでなく、自動で提携する事業者へ電話をかけて「◯◯様の部屋に◯日以内に行けませんか?」と交渉し、「水曜の17時なら行ける」と回答が返ってきたら、今度は入居者様に連絡する。そうした訪問スケジュールの調整までをすべて自動で行います。法的な判断や、最終的な人間による意思決定が必要な案件のみ、内容を要約して担当者にエスカレーションする仕組みになっており、入居者様を待たせることなく24時間365日対応できるのが最大の強みです。

──日本ではプロパティマネジメント業務にどれほどの労力がかかり、どのような人員体制で行っているものなのでしょうか。またそれをAIにより削減できる余地について、見解をお聞かせください。

平船:現在、当社では24時間対応の自社コールセンターを設けており、これは高いサービス品質を担保する当社の大きな強みです。しかし、現状は入居者様から電話で状況をお伺いし、修理事業者を手配し、難易度の高い修繕であれば社内の技術部門に確認を取るなど、非常に多くのフローと人員の労力が発生しています。「Brickwise」のように、AIがエラー内容や型番まで正確に事前ヒアリングし、一次対応とスケジュール調整を完結できれば、修理事業者が事前の現地調査に行く回数を減らすことができ、コストカットにも繋がります。それによって削減できた時間やコストは、オーナー様への還元や、自社スタッフがより付加価値の高いコンシェルジュ的なサービスに注力するためのリソースへと転換できると考えています。完全に人をなくすのではなく、AIと人間のハイブリッド運用が理想的ですね。

②「Argen」内覧時の「心の声」を可視化し、成約率を劇的に高める分析ツール

(デモ画面)

中村:もう一つの「Argen(アージェン)」は、仲介会社様向けの音声AI分析ツールです。これは、内覧時のお客様との会話をスマートフォンなどで録音し、AIが自動分析するサービスです。「日当たりを気にしている」「ペットを飼っている」といった会話の中から、お客様の真のニーズを抽出し、その場で自社のデータベースと照合して「それなら近くにあるこちらの物件もおすすめです」と最適な提案をリアルタイムでアシストします。 さらに、内覧後にはお客様へ「今日はここが良かったですね、ここが懸念点でしたね」という議事録メールまで自動生成します。顧客の納得度を高め、成約率を向上させるサービスとして注目しています。

平船:お部屋探しにおいて、お客様が本当に求めている条件と、仲介会社様が提案する物件の間に「ギャップ」が生まれてしまうことはよくある課題です。また、街のおいしい飲食店まで案内できるような熟練のスタッフと、新人スタッフとでは、どうしてもスキルや信頼度に差が生じてしまいます。 AIが会話を分析し、最適な提案をナビゲートしてくれれば、新人であっても熟練スタッフに近いレベルの提案が可能になります。スキルの標準化と底上げを実現しつつ、お客様にとっても「自分の好みを深く理解してくれている」という安心感につながります。高額な物件になればなるほど「プロに任せたい」というニーズが高まるため、人間のセールススキルをAIが支援する形は、非常に有効だと考えています。

テクノロジーは日本の賃貸経営に何をもたらすか

──AIを効果的に活用するには「データ」が鍵になると思います。米国での不動産データへのアクセシビリティについて教えていただけないでしょうか。

中村:米国では、地域ごとの権限分散はあるものの、全体的には不動産データが非常にオープンにされており、API(ソフトウェア同士を連携する仕組み)を通じて民間企業が容易にアクセスできる環境が整っています。過去の取引履歴や周辺環境のデータなど、細かな情報まで整備されているため、新しいAIサービスがそれらのデータを組み合わせてスピーディーに分析・学習できる土壌があります。

平船:日本では、国土交通省などが統計データは出しているものの、民間が直接AIの学習に活用できるような細かなデータのオープン化は遅れているのが実情です。多くのプレイヤーが介在するためデータが分散しがちですが、だからこそ、都心を中心に約10万戸という管理戸数を持ち、「どんな人が、どんな年収で、どこを借りているか」というデータを自社で蓄積していることが、三井不動産レジデンシャルリースがAIを活用する上で強みになると考えています。

──日米のデータ環境や商慣習の違いも踏まえた上で、日本の賃貸業界におけるAI活用は、まずはどのような領域・業務から本格化していくと思いますか。

平船:日本においては、まず「対入居者様」の領域から進めていくべきだと考えています。先ほどの「Brickwise」の例のように、問い合わせへの迅速な対応や、過去の履歴の要約をAIが行うことで、入居者様の不満をスピーディーに解消し、クレームの抑制につながります。そこから得られた課題を私たちが分析し、オーナー様への改善提案に活かすという流れが第一歩ではないでしょうか。 

また、契約書の完全電子化や多言語自動翻訳が進めば、海外に住むオーナー様や外国人入居者様にとっての利便性も飛躍的に向上し、市場のアクセスを広げることになります。

中村:AIは「人間が困っていること」を解決するために導入されます。人手不足や建築・修繕コストが高騰する中、例えばドローンと画像AIを使った外壁診断など、物件管理のハード面でのAI活用も今後必ず広がっていくはずです。現場の課題感に合わせて、最適なテクノロジーを世界中から発掘し、日本市場にローカライズしていきたいです。

──最後に、テクノロジーがさらに普及し、業務効率化が進んだその先の未来において、日本の賃貸業界はどのように進化していくと思い描かれていますか?

平船:AIの進化によって、これまで人間がやっていた「作業」は確実にAIに代替されていくでしょう。しかし、最後に仕事として残るのは「人間の判断」と「関係性の構築」だと思います。クレーム処理や事務作業といった業務が自動化された分、私たち賃貸マンションの運営管理は、入居者様に「安心で快適な住空間」を提供し、オーナー様と「より深い信頼関係」を築くという、人間にしかできない本質的な仕事に特化していくことができます。テクノロジーを活用することで、より温かみのある、付加価値の高いサポートを提供できる未来を描いています。

中村:スタンフォード大学でも、先生や研究者の間で「AIを使わない研究者はもはや立ち行かない」と言われるほど、AIは個人の能力を拡張するインフラとして日常的に使われています。不動産業界も同じで、AIを使いこなすことで、既存のプロフェッショナルとしてのノウハウや強みがさらに強力になります。数年後には、電話口で人間とAIの区別がつかない世界が当たり前になるでしょう。その変化を恐れるのではなく、三井不動産グループの持つアセットと最先端のテクノロジーを掛け合わせ、新たな賃貸住宅のスタンダードを共に創り上げていきたいですね。

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