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空室問題を解決?「外国人留学生」向け賃貸マンション市場の現状と展望
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2025.09.17

現在、日本で暮らす外国人留学生は336,708人(2024年5月1日時点)*。前年比20.6%増とコロナ禍以降、急速にその数を増やしている。
*参考:JASSO(独立行政法人日本学生支援機構)による2024(令和6)年度外国人留学生在籍状況調査結果
以前は物価の高い日本で暮らすために駅から遠く築年数の古いアパートなどを選択することの多かった外国人留学生だが、最近では経済的に余裕のある留学生が増加。
外国人の生活全般を支援し外国人専門に不動産仲介・家賃保証サービスを提供する株式会社グローバルトラストネットワークス(以下、GTN)の馬場勇氏によれば、家賃10万円超の物件へのニーズが高まっており、中には家賃100万円超の物件を求める「富裕層学生」もいるのだとか。
外国人留学生は、空室に悩む賃貸マンションオーナーにとって、新たな顧客層になり得るのか。馬場氏に、外国人留学生向け賃貸マンションの動向と変化したニーズについて聞いた。

株式会社グローバルトラストネットワークス(GTN) 馬場豊氏
外国人専門の賃貸住宅関連事業をはじめ、「住まい」「通信」「金融」「仕事探し」の四領域でサービスを提供し、外国人留学生が日本で安心して暮らせる環境づくりに取り組む。家賃保証、生活支援、通信契約、就業支援まで一貫してサポートし、管理会社や学校との連携を通じて、多様な課題解決に貢献している。
東京23区内の、新成人の8人に1人が「外国人」
──最近の外国人留学生向け賃貸市場の動向について教えて下さい。
私たちは19年間にわたり外国人専門の賃貸関連事業を展開してきました。はっきりと潮目が変わったのはコロナ禍の前後です。
コロナ禍以前は、外国人留学生が住む部屋といえば、家賃の相場は5~6万円台で、浴室、洗面台、トイレが同じ空間にまとめられた3点ユニット。駅近・築浅のいわゆる人気物件は日本人で埋まることが多く、外国人留学生は「日本人から選ばれなかった物件から選ぶ」ケースが多かった印象です。
しかし今は、多くのマンションオーナーやデベロッパーの考えが変わり、外国人留学生を歓迎する物件が増えている印象です。家賃10万円以上の物件を探すような外国人留学生も増えています。下は5万円の賃料から上は50万円、100万円まで。中にはマンション購入を検討している方もいます。今は外国人留学生が「物件を選べる」時代になってきていると感じます。
──外国人留学生から特にニーズがあるエリアはどこですか?
代表的なのは、新宿区、中野区、豊島区です。体感としてもその3つのエリアは外国人の多い印象がありませんか?東京都内で見ても2025年の新成人の8人に1人は外国人。すべてが留学生というわけではないですが、それでも外国人留学生がたくさんいるのは想像に難くないですよね。

JASSO(独立行政法人日本学生支援機構)、2024(令和6)年度外国人留学生在籍状況調査結果より引用
トラブルのほとんどは「認識のギャップ」が原因
──外国人の入居を懸念する賃貸マンションオーナーも多いです。実際に外国人留学生の受け入れにおけるトラブルやクレームにはどんなものがありますか。
GTNに寄せられる意見で最も多いものは、文化や習慣の違いから発生するクレームです。例えば、ごみ出しや共有スペースの使用方法などですね。あとは契約に関するトラブル。入退去時や更新のタイミングはトラブルが起きやすいです。
ただトラブルが起こるのは本当にごく一部のケースです。そして、トラブルが起こった場合も、そのほとんどは本人の悪意というよりも「認識のギャップ」によって発生するケースばかりです。
例えばごみ収集のマナーについてそもそも知らないため、ベランダにごみを放置してしまう。家賃はオーナーが直接回収に来るものだと思い込み、未払いが発生してしまう。彼らは日本の明文化されない「暗黙のルール」を知らないため、悪気なくトラブルを起こしてしまうのです。
──実際のトラブルを防ぐために、賃貸マンションオーナーが講じられる対策はありますか。
ルールを知らないことによるトラブルは事前に説明をすれば防げます。例えばGTNでは家賃に関しては、契約の前にきちんと礼金敷金を含めた基本的な知識を説明してから契約をしています。また、文化や習慣に関しても、動画などを用いて丁寧に説明することで理解してから入居してもらうようにしています。
例えば「ペット禁止」という物件で鶏を飼っていた外国人がいるのですが、彼らからすると「ペット」ではなく「家畜」という認識。ペットに金魚は含まれるのかなど、日本人でも曖昧な部分もありますよね。こうした暗黙の了解で成り立ってきたルールをきちんと言語化し、双方の認識をすり合わせていくことが大切です。

──では外国人に先入観のある賃貸マンションオーナーに対して、貴社が何か行っていることはありますか。
まずは目の前の外国人留学生について正しく知ることが大切だと考えています。外国人というだけで敬遠される賃貸マンションオーナーも多いのですが、実際に会ってみると見方が変わるケースは珍しくありません。
GTNでは、賃貸マンションオーナーと留学生が対面するイベントを開催して啓蒙活動に務めています。事前に説明すれば理解してもらえるのだと気付けば、賃貸マンションオーナーの向き合い方も変わってきます。
そもそも外国人留学生は、わざわざ勉強するために日本を訪れている真面目な人たちばかりです。目的があり、祖国での厳正な審査を経て日本に留学しているので、そもそも不正な経歴や意図を持つ人は入国を許可されません。また、違法行為をすれば帰国しなければなりません。外国人は悪いことをするというイメージを持っている人がいるとすれば、それは誤解です。
日本人とは異なる外国人留学生の物件へのニーズ
──賃貸マンションオーナーにとって、外国人留学生を受け入れることにどのようなメリットがありますか?
外国人と日本人では住まいに求める条件や優先順位が異なります。そのため、例えば日本人だと大がかりな修繕やクリーニングをしないと入居に至らないというケースでも、外国人ならばそのままで気にしないということも少なくありません。
外国人の視点に立てば、シャワーだけでも十分だったり、畳でも問題ない場合があります。フローリングがあって、浴槽があって、風呂・トイレ別が良いとするのは日本の独自の考え方かもしれません。
──空室問題に悩む賃貸マンションオーナーにとっては、外国人留学生が入居してくれればありがたい存在となります。外国人留学生に選ばれる物件であるためには、賃貸マンションオーナーはどんな点に留意すればいいですか。
出身国や文化、経済状況によって、ニーズは変わってきます。そのため、近隣エリアにどのような外国人がいるかを知ることが一番大切です。
例えば、比較的裕福な家庭の多い国からの留学生であれば、賃料が高くても、広さ、立地の良さ、オートロックやエレベーターの設備などにこだわります。また、風水の観点で部屋の前に電柱があったり、駅までの道中に墓地があったりすると避けられることがあります。
経済的にそこまで余裕のない家庭の留学生の場合は、二人入居を認めることで選択肢が広がり、借りやすくなるでしょう。
あと、共通して言えるのは、ネット環境が整っていて家具が備え付けられている物件が好まれるということです。不慣れな外国では、インターネットや携帯電話の契約をするのも一苦労だということは想像できますよね。家具は以前の住人が使用していた中古品、レンタルやサブスクリプションでも気にしない方が多いです。大きな投資は必要なく、最低限の投資で良い場合もあります。

──今後、外国人留学生向け賃貸市場はどのように変化していくと考えられますか。
これは私の願望でもありますが、これから外国人留学生が選べる物件の選択肢はもっと増えていくのではないかと思います。昔のように「外国人はここにしか住めない」ではなく、それぞれの予算やニーズに応じて、さまざまな物件を選べるようになるでしょう。
「外国人はちょっと」と言っていては入居の可能性を大きく狭め、商機を逃してしまうかもしれません。外国人留学生は多様である分、どの賃貸オーナーの方にとっても、魅力的な入居候補になり得るはずです。空室に悩む賃貸オーナーの方にはぜひ、ご検討いただきたいですね。