TREND

木造で“マンション“という新しい選択肢。なぜ今「モクシオン」なのか?

  • コンセプト賃貸
  • 省エネ
  • デザイン

2025.12.16

住む人が木の温もりを感じられ、環境にもやさしい木造マンション。北米等の海外では一般的だが、日本では地理的制約や構造・性能面の制約から実現は難しいとされてきた。そうした従来の概念を覆して、三井ホームが独自に開発した工法により提供する商品ブランドが、木造マンション「MOCXION(以下、モクシオン)」だ。

三井ホームによると、モクシオンは一般的な鉄筋コンクリート造(以下、RC造)マンションとほぼ同等水準の「耐震性」「耐火性」「耐久性」を実現。また木材の特徴である「調湿機能」「足腰への負担を軽減する柔軟性」により人にやさしい快適な住空間を提供し、さらに三井ホーム独自技術による「高気密・断熱性」により高い省エネルギー性能を確保するなど、入居者にとって魅力的な住環境を実現している。一方でオーナーにとっては、税制面での柔軟性や、補助金制度の活用により賃貸事業としての収益性を高められる点が特徴だ。

木造マンションは賃貸経営の新しい選択肢になるのか。モクシオンの企画・設計・監理を担当する三井ホームの奈留 隆善氏と、「パークアクシス北千束モクシオン」の新築リーシングを担当した三井不動産レジデンシャルリースの田邉 淳也に、モクシオンの開発経緯や木造マンション市場の将来展望について聞いた。

三井ホーム株式会社 奈留 隆善 氏(写真右)
施設・賃貸事業本部 施設・賃貸設計部 設計グループ(取材当時)
戸建住宅や保育施設等の低層木造物件を多数担当し、モクシオンプロジェクトチームに参画。

三井不動産レジデンシャルリース株式会社 田邉 淳也 (写真左)
プロジェクト営業本部 プロジェクト営業一部 プロジェクト営業課(取材当時)
受託運営本部に在籍していた際に、「パークアクシス北千束モクシオン」新築時のリーシングを担当。現在はプロジェクト営業本部に在籍中。

住む人にも、環境にもやさしい「木造マンション」に挑戦

──まずはモクシオンが開発された経緯について教えてください。

奈留 隆善 氏(以下、奈留):「日本でも海外のように木造マンションを商品化できないか」と考えたことがプロジェクトの発端です。北米などの海外では、木造マンションは一般的です。木造はRC造に比べて軽量な為、敷地条件によっては杭工事を省略できる、工場で木材をプレカットするため工期を短縮できるなど、事業者にとってのメリットが多いためです。

しかし、日本では自然災害の多さなどの地理的要因や、遮音性や耐火性などの構造・性能面の理由により、これまで普及が進んでいませんでした。一方で脱炭素やSDGs等の社会的要請が年々高まる中で、もし木造マンションの普及が実現すれば、地球にも人にもやさしく、社会課題の有力な解決手段になりますし、また木の持つ温かみやデザイン性、建築費の優位性など、これまでにはない新たな価値を生み、既存工法と大きく差別化を図ることができるのではないかと考えました。

そこで三井ホームが所有していた東京都稲城市所在の土地を活用して、新規プロジェクトとして取り組むことになりました。

RC造マンションとほぼ同等水準の「耐震・耐火性」「耐久性」「断熱性」を実現

──モクシオンの性能について教えてください。

奈留:一点目は、耐震性と耐火性が確保できている点です。RC造同等の耐震性能を備えたモクシオンを実現する為に、高強度耐力壁MOCXウォールを開発し、階層に基づいて必要となる耐火性能を満たしています。

二点目は、耐久性です。「住宅性能表示制度」で、モクシオンは劣化対策等級3という最高ランクを取得しました。適切な維持管理がなされていれば、3世代、およそ75年から90年先まで大規模改修工事を必要としない対策が講じられているという評価がなされ、耐久性の高さが証明されました。

三点目は、断熱性です。モクシオン第1号物件である「モクシオン稲城」では、省エネルギー集合住宅「ZEH-M Oriented(ゼッチ・マンション・オリエンテッド)」と、省エネルギー対策等級4を取得しました。外気の影響を受けにくく、エネルギー消費が軽減されるため、入居者は光熱費負担を抑えることができます。

このように、モクシオンは木造でありながら一般的なRC造マンションとほぼ同等の性能を持つため、安心して住むことができるのです。

「モクシオン稲城」の外観

──鉄骨造やRC造にはない、木造マンションならではのメリットはありますか。

奈留:入居者目線では、光熱費が抑えられることと、暮らしやすい点が挙げられます。木造の床は柔軟性があるので、日々の生活で足腰にかかる負担が軽減されます。

またモクシオンで使用する木材は、CO2の吸収率が減少した高齢樹です。伐採後の土地には植樹して、成長した木がまた多くのCO2を吸収するというサイクルになっています。木造マンションを建築するとCO2が削減される、循環型のサステナブルなマンションと言えます。

安価な光熱費、間取りの広さ「パークアクシス北千束モクシオン」の魅力

──2023年に竣工した「パークアクシス北千束モクシオン」の概要と、実現した経緯について教えてください。

田邉 淳也(以下、田邉):「パークアクシス北千束モクシオン」は、三井不動産レジデンシャルが開発した三井不動産グループ初のALL木造・カーボンゼロ賃貸マンションです。徒歩4分の東急大井町線「北千束」駅をはじめ4駅3路線が利用可能で、東急東横線「自由が丘」駅も自転車で14分の生活圏内という好立地にある、1DKから2LDKまでのプランバリエーションで構成される地上4階建総戸数33戸の木造賃貸マンションです。

もともとは三井不動産レジデンシャルが展開する分譲マンション事業で脱炭素化の流れがあり、賃貸マンション事業「パークアクシス」シリーズでもカーボンゼロを目指そうと検討していました。

ちょうどそのタイミングで、モクシオンが商品化されました。従来「パークアクシス」シリーズはRC造やSRC造でしたが、北千束の企画はモクシオン第1号物件である「モクシオン稲城」と同じ中高層物件で、立地条件等もモクシオンに適していました。そこで三井不動産レジデンシャルと三井ホームに弊社が加わり、三井不動産グループ会社合同で北千束プロジェクトを立ち上げモクシオン物件として取り組むことになりました。

──「パークアクシス」シリーズとしては初の木造賃貸マンションでしたが、リーシングで意識した点はありますか。

田邉:弊社は「パークアクシス」シリーズのリーシングを過去に数多く手掛けてきましたが、木造賃貸マンションのリーシングは当然のことながら本物件が初めてでした。リーシング計画段階では、入居検討者様は木造住宅の一般的な遮音性や断熱性を理由にモクシオンを敬遠するのではないかという懸念がありました。そこで三井ホームとも相談して、モクシオンの優れた商品性を入居希望者様に十分に理解いただけるような仕掛けを用意しました。たとえばモデルルームで特設パネルを使って性能をアピールしたり、遮音性能を体感できる体験会を開催したりして、時間をかけて入居希望者様が木造に抱く印象を変えていきました。その結果、順調に成約が進み、2024年10月には満室稼働を迎えることができました

また一般的に木造賃貸アパートはRC造賃貸マンションと比較して賃料水準が低い傾向にありますが、「パークアクシス北千束モクシオン」は同一マーケットにおけるRC造賃貸マンションとほぼ同価格帯で成約させることができた点は大きな成果だと考えていますし、今後弊社として自信をもって木造賃貸マンションをリーシングしていけると感じています。

──実際に入居した方からは、どんな声がありますか。

田邉:入居前の内覧時には「光熱費が安くなることを期待してこのマンションを選んだ」、入居後のアンケートでは、RC造と比べて梁や柱を小さくできるため、「家具を配置しやすい」「部屋を広く使える」と間取りを評価していただく方が多くいらっしゃいました。

「パークアクシス北千束モクシオン」の外観

木のぬくもりが感じられるエントランスホール

木造ならではのゆとりのある設計の居室空間

補助金制度の活用による収益性向上や税制面での柔軟性も

──オーナーの収益性や投資の観点では、RC造賃貸マンションと比べていかがですか。

田邉:カーボンニュートラル推進施策の一環として「中大規模木造建築物の普及支援」を目的とした国の補助金制度があり1、「パークアクシス北千束モクシオン」は国土交通省の「令和4年度 優良木造建築物等整備推進事業」に採択されて補助金の交付を受けています。こうした公的補助金を活用して初期投資を抑制することができます。

※1 本稿掲載時点

次に税制面においては、事業収支における建物本体の減価償却期間を22年もしくはRC造マンションと同じ47年と選択できる※2ため、キャッシュフローと事業目的に合わせて柔軟に運用することができるのです。

※2 企業会計において法定耐用年数を超える減価償却期間を採用する場合には、公認会計士等との協議が必要となります。

モクシオンはRC造マンションと同等水準の品質でありながら木造ならではのメリットを享受でき、またサステナブル投資の観点からも、各デベロッパー企業様から弊社への問い合わせが増えていると感じます。

──木造マンション市場について、今後の展望をお聞かせください。

田邉:環境への配慮をしながらRC造賃貸マンションと同等の賃料が見込めることから、一定のオーナーニーズがあると感じています。弊社でもモクシオンの認知度を高め、オーナー様へ積極的に提案していくことで、木造賃貸マンション市場をより拡大していきたいと考えています。

奈留:我々が木造マンションというカテゴリを創出したことで、弊社以外のハウスメーカー企業様でも新たに木造マーケットに参入するケースが増えてきました。木造マーケットが広がれば木造マンションへの認知や需要も高まり、結果的に木造マンションの普及につながることを期待できます。競合相手ではありますが木造マーケットを拡大するためにハウスメーカー間での意見交換も行っています。

木造マンションは他物件と差別化できますし、何より街に木造建築があることは、地球環境にやさしいですよね。今後、木造マンションマーケットが拡大していく可能性は十分にあると考えています。

記事一覧に戻る

この記事をシェアする