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【賃貸オーナー様向け】賃料の値上げはできるのか?賃料改定交渉のリアル

  • 基礎知識

2025.08.21

全国的に賃料相場が上昇傾向にある今、賃貸経営の現場では「既存入居者との賃料交渉」が現実的な選択肢として注目されています。一方で、借地借家法や契約更新の制約もあり、賃料改定には専門的な知識と丁寧な対応が求められます。 

三井不動産レジデンシャルリースでは、近年増加するオーナー様からの賃料改定相談に対し、法的根拠とデータに基づいた適切な交渉を行っています。同社の賃貸運営本部で実際に賃料改定交渉を担当していた桐村和随に、賃料交渉の実情とポイントを聞きました。 

プロジェクト営業二部 プロジェクト営業課(取材当時)  桐村 和随 

 なぜ今、賃料交渉なのか? 市況とオーナーニーズの変化 

──最近の賃料相場の動向について教えてください。 

桐村:全体的に値上げ傾向です。都心部はもちろん、郊外エリアについても都心部ほどではないものの、値上げ傾向が続いています。分譲マンションの販売価格の上昇に伴って賃料も上がっているのです。 

分譲マンション販売価格の上昇要因は主に2つあると考えます。 

1つは円安です。海外の投資家の方々も、日本の分譲マンションを投資目的で購入されており、それが価格上昇の一因となっていると言われています。 

もう1つは、いわゆる「パワーカップル」と呼ばれる高収入の共働き世帯が増えてきていることです。例えばご夫婦それぞれが年収1,000万円を超え、世帯年収2,000万円という方々が多くいる中で、昔は「億ション」と呼ばれていた1億円超の分譲マンションが手の届く価格帯となっており、それに伴って分譲価格が上昇しています。 

また、特に分譲賃貸やタワーマンションなど、ハイグレードな賃貸物件は新築供給が少ない状況が続いており、その分希少性も高くなって賃料が上がってきています。 

現在も分譲マンションの販売価格は上昇傾向にありますので、買い控えをして賃貸に流れてきているという傾向もあります。 

──オーナーからの賃料改定相談は増えていますか? 

桐村:この2〜3年で特に増えている印象です。これまでは契約更新時でも賃料を変更することはあまりなく、オーナー様の関心もそれほど高くありませんでした。しかし、マーケットにおける賃料相場の上昇が顕著に見られるようになってから、急激に増えている印象です。 

オーナー様が抱えている課題は主に2つあると考えます。1つは、特に3LDKなど家族向けの物件で居住期間が長い入居者様がいる場合、現在の賃料相場と10年前の契約時の賃料が大きく離れているようなケースがあることです。10年前の賃料相場と今の賃料相場を比べると一目瞭然に違いますので、そこをきちんと適正化してほしいという強いご要望を受けることがあります。 

もう1つは、オーナー様の支出面での変化です。清掃費や修繕費の値上がりや、土地固定資産税の増加など、オーナー様の維持管理費の支出は増えています。 

賃貸経営の視点から、賃料改定を検討するオーナー様の意向は妥当だと言えます。 

賃料交渉の根拠と実務 

──賃料交渉はどのような根拠に基づいて行われるのでしょうか。 

桐村:借地借家法第32条に基づいて、双方の合意があれば賃料交渉は可能です。但し、あくまで合意ベースでの交渉となります。 

当社では契約更新時はもちろん、契約期中でもトレンドが大きく変わった場合は交渉ができるような契約内容にしています。ただし、期中の交渉は基本的に行っておらず、2年ごとの契約更新時に提案することがほとんどです。 

実際の交渉で、一番多く説明しているのは近隣の賃料相場の上昇です。同じマンション内での最近の成約事例や周辺物件の相場データを示して、現在の賃料が市場価格と比べていかに割安になっているかを客観的に説明します。 

──具体的な交渉プロセスについて教えてください。 

桐村:基本的に交渉は郵送と電話で行います。特に重要なのは客観的なデータを示して、入居者様に現在の賃料がいかに市場価格と乖離しているかを理解していただくこと。周辺の相場情報や、その物件での最近の成約事例などの情報をお出しして、データに基づいた交渉を心がけています。

交渉期間はケースによって様々ですが、相応の時間を要すことも多々あります。弁護士名義の書面が返ってくることも珍しくありません。最終的には双方の合意が必要なので、丁寧に交渉を続けることが重要です。 

重要なのは、ゼロ回答を避けること。少しでも上げられるよう努力しつつも、入居者様にも「今回は合意しておいた方が良い」と思っていただけるような交渉を心がけています。 

事例から学ぶ賃料改定交渉のポイント 

──印象的な事例を教えてください。

桐村:現在の賃料相場と住み始めた時点の賃料に約1.5倍の差がある、10年以上お住まいの入居者様との交渉事例です。

これまでの交渉では合意に至ることができませんでしたが、市場データに基づいた資料を作成し、実際に入居者様と面談を重ねて、最終的に15%増で合意いただきました。ポイントは客観的なデータを示したことと、何度も足を運んでお話をしたことです。 

もう一つの事例は、契約更新の6ヶ月前に賃料改定の書面を送付し、弁護士名義で返事が来たケースです。お部屋の中の瑕疵などを理由に値上げができないという内容でしたが、マーケットの上昇やオーナー様の支出増加を根拠に交渉を続けました。 

期限までに合意は得られませんでしたが、こちらから「期限を越えても据え置きで更新するが、今後も交渉を続ける」とお伝えしたところ、期限を越えた2週間後に一定の増額で合意いただけました。諦めずに交渉を続けることの重要性を実感した事例です。 

──三井不動産レジデンシャルリースの管理物件は8万戸以上あります。大量の賃料改定交渉をどのように行っているのでしょうか。 

桐村:当社では1都3県を中心にした87,967戸の管理(2025年3月末時点)をしており、年間20%が契約更新の対象になると仮定すると、約17,000件になります。これだけの規模になると、人海戦術だけでは限界があるため、システムによる効率化が不可欠です。 賃貸借契約の期間満了が近づいた際には担当者確認の上、自動で提案書面を発送できるように仕組みを整えています。

ただし、全ての物件を画一的に扱うわけではありません。オーナー様のご意向が特に強い物件や、市場価格との乖離が大きい物件については、個別に対応を強化しています。例えば、先ほどお話しした渋谷区の事例のように、直接面談を行うなど、きめ細かい対応を行うケースもあります。 

このようなシステム化と個別対応の使い分けにより、当社だからこそできる行き届いた賃料交渉が可能になっています。賃料交渉を担当するスタッフも100人以上おり、組織力を活かした対応を実現しています。 

オーナーの収益最大化が三井不動産レジデンシャルリースの価値向上に 

──今後の賃貸市場の見通しと賃料改定交渉への展望をお願いします。 

桐村:今後の市場については、上昇トレンドが継続すると予想しています。人件費や建築費の高騰基調は今後も継続していくと考えられ、分譲マンションの販売価格が下がる要素が見当たらない中、それに連動して賃料相場も上昇していくでしょう。 

今後も賃料改定については継続的に取り組んでいきたいと思います。1,000円でも2,000円でも上げられるよう努力することが、オーナー様の収益最大化につながりますし、三井不動産レジデンシャルリースの価値向上にもつながると考えています。 

また、従前よりも高い賃料をお支払いいただく上では、入居者様に対しても更なる高い価値を提供していく必要があります。 

賃料交渉は決して簡単ではありませんが、適切なデータに基づいた丁寧な対応により、オーナー様と入居者様双方が納得できる解決策を見つけることが可能です。今後も、この取り組みを通じてオーナー様の資産価値と入居者様の満足度の向上に貢献していきたいと考えています。 

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