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「防音」マンションで差別化。周辺相場130%の家賃でも満室稼働の理由とは?

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2025.07.08

近年、入居者のライフスタイルが多様化し、賃貸マンションへのニーズもまた細分化している。さまざまなコンセプト型賃貸マンションが誕生する中で、安定して人気を集めているのが防音マンションだ。

三井不動産レジデンシャルリースがリーシングを担当した「パークアクシス」シリーズ初の防音マンション『パークアクシス板橋MUSE』では、インターネット配信や楽器演奏が趣味の方などから好評を得て、早期での成約を実現した。

三井不動産レジデンシャルリースの恩田祐次(プロジェクト営業本部 プロジェクト営業課)は「防音マンションの供給量はまだ需要に追いついておらず、今後も高賃料が期待できるカテゴリーだ」と話す。

また、株式会社らしく(以下、らしく)が展開する24時間楽器演奏が可能な防音賃貸マンション「ラシクラス」は、周辺相場の約130%の家賃設定にもかかわらず、エリアや駅からの距離に関係なくほぼ満室稼働しているという。

本記事ではらしくの事業統括本部長補佐である板橋健介氏の話から、今後の防音マンションの展望を紐解いていく。

防音マンション市場は「需要」に「供給」が追いついていない

──近年の防音マンション市場についてお聞かせください。

現在、防音マンション市場は需要に供給が追いついていない状況です。当社が展開する防音賃貸マンション「ラシクラス」は、現在までに企画中の物件も含めて約120棟、供給戸数にして1,200戸以上を展開しています。年間10棟前後のペースで供給を続けていますが、需要は依然として高い状態が続いています。

最近は楽器演奏だけでなく、動画配信やYouTuberの方など、新しいニーズも増えてきました。テレワークの浸透など、以前は想定していなかった需要も出てきており、防音マンション市場にとって追い風になっています。

株式会社らしく 板橋健介氏

――防音マンション市場に参入する魅力は何でしょうか?

大きく分けて2つの魅力があると考えています。1つは地価や建築費の高騰により、マンションにも差別化が求められていることです。何か付加価値がないと競争力が保てない状況下で「防音マンション」は有力な選択肢となっています。

もう1つは認知度の向上です。以前は「防音マンション」という概念自体があまり知られていませんでしたが、最近では認知度が大きく向上しました。例えば「アルバイトを頑張っていつか住みたい」とか「昇給したら防音マンションに引っ越したい」といったように、目標や憧れの住まいとして語られることも増えており、ライフスタイルの選択肢の一つとして定着しつつあります。

認知度の向上は、市場の拡大にもつながっています。以前は物件を見て初めて「こんなものがあるのか」と驚かれることが多かったですが、今では防音マンションを積極的に探しに来られる方が増えている状況です。

「ラシクラス」はプロも認める音響環境で24時間音出しOK

――「ラシクラス」の特徴についてご説明をお願いします。

ラシクラスの最大の特徴は、マイナス80デシベルを基準とした高い防音性能です。これは、電車が通過する際のガード下の音(約100デシベル)がほとんど聞こえなくなるレベルです。

近年は「楽器可マンション」や「防音マンション」が増えていますが、夜9時までの使用制限などのルールが設定されている物件も多いです。一方でラシクラスは、24時間使用可能な音響性能を実現しています。

また防音マンションは「音漏れを防げば防ぐほど優秀」というわけではなく、居住環境として快適性も求められます。そのためラシクラスでは、天井には音を吸収する部材を使用し、壁には音を反射する部材を使用しています。

「ラシクラス」の防音性能を備えた『SOLASIA residence 上板橋』

――防音マンションの間取りに特徴はありますか?

基本的な間取りは、一般的なマンションと大きな違いはありません。基本的には1Kタイプが中心ですが、ファミリータイプの需要も存在するため、2LDKなどの間取りも用意しています。ファミリータイプの場合、1つの洋室のみを防音室として設計しています。これにより家族の中で1人だけ音楽活動をする方でも、他の家族に迷惑をかけることなく趣味を楽しめるようになっています。

防音マンションのニーズはエリアに左右されない

――防音マンションの需要が高いエリアはありますか?

防音マンションの需要は、エリアには左右されません。まだまだ供給が追いついていない状況なので、職場や学校から通えるエリアであればどこでもニーズがあります。「ラシクラス」は、らしくの本社がある板橋区に加えて練馬区・北区にも多くの物件がありますが、特定のエリアを狙っているわけではありません。

最近では地方からの引き合いも増えており、名古屋や福岡など、地方の大都市圏でも需要は確実にあります。音から発生するトラブルはどこでも起こり得るものですから、その解決策として防音マンションへの期待は全国的に高まっています。

1Rタイプのモデルルーム。「ラシクラス」の防音性能を体験することができる

――防音マンションのターゲット層は?

居住者の年齢層は若い方が中心ですが、高齢の方で「趣味で楽器を始めたい」という方もいらっしゃいます。プロの音楽家から趣味で楽器を楽しむ方まで、幅広い層にニーズがあります。

防音マンションの入居者は、物件を探す際にほかの方とは異なる優先順位を持っています。一般マンション探しでは「駅からの距離」などが重視されますが、防音マンションの場合は優先されるのは防音性能です。防音性能の次に空室状況や賃料で決めるお客様が多い傾向がありますね。

防音マンションは初期コストに対するリターンが大きい

――防音マンションの収益性について一般的なマンションとの比較も交えて教えてください。

防音マンションの建築コストは、通常のRCマンションと比較して若干は高くなります。 それでも家賃設定を周辺相場の130%程度にできるため、投資効率は非常に良いです。

例えば、一般的なRCのマンションで10万円の家賃なら「ラシクラス」は13万円程度です。スタジオを借りる費用や移動の手間を考えれば、トータルでは防音マンションのほうが経済的だと居住者の方にも感じていただいています。

また防音マンションは、一般的な物件より退去率が低いのも特徴です。同じような防音マンションを探すのが難しいことや、大型の楽器を搬入して住んでいる場合は引っ越しが大変なこともあり、皆さん長く住んでいらっしゃいます。

初期コストは若干高くなりますが、高い家賃設定と低い退去率により、長期的には非常に収益性の高い投資と言えます。

今後も防音マンションの市場は拡大していく

――今後の防音マンション市場の展望についてお聞かせください。

防音マンション市場は、今後も間違いなく拡大していくと考えています。 地価や建築費の上昇により、一般的な賃貸マンションでは差別化が難しくなる中、コンセプトマンションへのニーズが高まっている状況です。その中でも防音マンションは、クリティカルな商材になるでしょう。

防音マンションの市場は、まだ供給が追いつかない状況であり、他社が参入する余地は十分にあると考えています。

――最後に賃貸マンション経営に興味のあるオーナー様や事業者の方々へメッセージをお願いします。

防音マンション事業は、賃貸マンションの事業者にとって新たな可能性を開く分野だと考えています。初期投資は通常のマンションよりも高くなりますが、高い家賃設定と安定したニーズがあるため、長期的には高い収益性が期待できるでしょう。

防音マンションは、音楽や創作活動を支援する住まいとして、今後ますます社会的な意義を高めています。賃貸マンション経営を検討している皆様には、ぜひこの新しい市場の可能性に注目していただきたいです。

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