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【田端】賃貸住宅として生まれ変わった築30年の旧社宅は、いかにして計画を上回る賃料で満室稼働を実現したのか?

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2026.10.27

JR山手線・京浜東北線「田端」駅から徒歩圏内の閑静な住宅地に立つ「ステラメゾン田端」は、全24戸が約75㎡・3LDKのファミリー向け賃貸住宅。1995年の竣工以来、社宅として利用されてきた建物を築30年目に一般賃貸へとリノベーションした物件だ。

本物件を保有するのは、オフィスビルや賃貸住宅を中心に不動産の保有・運用を手掛ける清和綜合建物株式会社(以下、清和綜合建物)。同社では、賃貸事業を企画から運営まで総合的に支援する三井不動産レジデンシャルリースの「賃貸総合企画」を活用し、建物として必要な設備更新と賃貸商品としての競争力向上を両立。計画を上回る賃料水準で満室稼働に至ったその成果を支えたのは、一つの決め手ではなく、投資、工事、契約、リーシングの各局面でプロフェッショナル同士が重ねた緻密な選択だった。

そこで今回は、清和綜合建物でプロジェクトの企画・事業性検討を担当した投資運用部 部長代理の毛塚 正樹氏と工事推進を担った開発事業部 リーダーの塩崎 圭由氏、三井不動産レジデンシャルリースで清和綜合建物との窓口を担ったプロジェクト営業本部の青木 菜摘(取材当時)とソリューション推進部 技術サポート推進課で建築・技術面を担当した安藤 武司(取材当時)に話を聞いた。それぞれの視点を通して、築30年の建物から新たな価値を引き出すまでのプロセスと、その要所で下した判断をたどる。

4社コンペで見極めた賃貸住宅としての可能性

プロジェクトの発端は、清和綜合建物が保有・管理する田端を含めた複数の物件で、長年にわたる社宅としての利用が終了したことだった。同社は物件ごとに売却や保有継続などの方向性を検討する中、田端についてはファミリー向け賃貸住宅としての可能性に着目。ただし事業化を進めるには、一般賃貸へ転換した場合にどの程度の賃料水準が期待でき、どれだけの需要を見込めるかの見極めが必要だ。そこで2023年7月、同社は取引のある賃貸運営会社4社に約75㎡・3LDKのファミリータイプとして再生する前提で提案を求め、事業性の検証に着手した。

清和綜合建物株式会社 投資運用部 毛塚 正樹氏

プロジェクト営業本部 青木 菜摘(取材当時)

毛塚 正樹氏(以下、毛塚):田端は立地や周辺環境を考えても、住宅として活用するのが自然だろうという感触はありました。ただ、社宅として運用してきたため、一般賃貸市場の賃料動向や周辺の供給状況については十分な情報が社内にはなかった。当社の保有物件もシングル・コンパクト系が比較的多く、ファミリータイプの事業性を見極めるには外部の知見も必要でした。

青木 菜摘(以下、青木):提案のご依頼を受けて、まず立地の良さに着目しました。田端駅から近く、周辺は閑静な住宅街です。建物もしっかり造られ、地下駐車場なども備えています。既存建物の造りの良さを生かして現在のニーズに合わせれば、過大な投資をせずに競争力を高められると考えました。

毛塚:各社の提案選考に際して特に重視したのは「費用対効果」です。重厚な投資をするのではなく、できるだけリーズナブルな投資で高いパフォーマンスを得たいと考えました。ただし、重要なのは提示された賃料水準に実現性があるかどうかです。そこで投資額や賃料、投資回収の考え方、リーシングの見通しまで比較し、最終的に三井不動産レジデンシャルリースさんにお願いすることを決めました。

過剰投資を避けながら、商品力と収益性を追求

三井不動産レジデンシャルリースは30~40代のファミリーやDINKSを主な入居検討者層に設定し、市場性を見極めつつ商品企画と賃料水準を検討。清和綜合建物との協議を重ね、商品力と投資額のバランスを取りながら仕様を具体化していった。一方、清和綜合建物は賃料相場の変化を踏まえて当初想定していた三井不動産レジデンシャルリースとの契約方式も途中で見直すなど、過剰投資を避けて商品力を高め、市況を収益機会につなげる事業設計を練り上げていく。

青木:水回りの更新に加えて、社宅時代には十分ではなかったセキュリティの強化や、和室を含む既存プランの見直しなどを提案しました。また賃料については、周辺の類似物件や弊社がこれまでリノベーションした物件のリーシング実績も参考に、築年数だけでなくリノベーション後の商品力も踏まえてどこまで賃料が見込めるのか検証しています。さらに選定後には、協力会社様とも連携して補助金の対象となる断熱性能向上策なども追加提案しました。

安藤 武司(以下、安藤):工事項目を整理して、最低限必要なものと、さらに商品力を高めるためのオプションに分けてご提示しました。設備や仕上げをどこまで更新するかも含めて、複数の仕様を比較しています。すべてを新しくするのではなく、どこにコストを掛けることが賃料や競争力につながるのかを見極めながら、清和綜合建物様と相談して仕様を詰めていきました。

毛塚:リノベーションの実績がそれほど多くなかった当社にとって、必要な投資とその効果が整理された非常に分かりやすい提案でした。オートロックや宅配ボックス、インターネット環境など、賃貸住宅として必要な機能を押さえつつ、単に高い賃料を示すのではなく、過剰投資を避けて事業採算を組み立てている点も選定理由の一つです。

4社コンペでは空室保証付きのサブリースを前提に賃料水準を比較していましたが、その後の賃料相場の上昇を受けて、最終的には空室保証を付けず、実際の賃料収入を反映するパススルー型へ切り替えました。空室や賃料変動のリスクは当社が負う一方、賃料上昇のメリットも取り込めるため、その方が収益性を高められると判断したのです。

【エントランス】

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After

【キッチン】

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【洗面台】

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【バス】

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After

築30年の「大規模修繕」と「リノベーション」を同時に推進

一般賃貸へのリノベーションを進める一方、今回のプロジェクトにはもう一つ大きな工事テーマが重なっていた。1995年竣工の建物は築30年を迎え、長期修繕計画に基づく設備更新の時期にも差しかかっていたのだ。そこで清和綜合建物はリノベーション工事と並行して、エレベーターや排水管、消防・電気設備などの更新・補修も進める必要があった。そこに「性質の異なる複数の工事をいかに円滑に推進していくか」という新たな問題も立ち上がる。

清和綜合建物株式会社 開発事業部 塩崎 圭由氏

ソリューション推進部 安藤 武司(取材当時)

安藤:工事体制については、ゼネコン1社に専有部・共用部をまとめてお願いする案と、それぞれ得意とする会社へ分ける案の2パターンをご提示し、最終的にはコスト面などから後者が採用されました。また、リノベーションと長期修繕に伴う設備更新を同時に進めるのに加え、複数の工事を異なる施工会社が担うとなると、工程や施工範囲をすり合わせる必要があります。そこで弊社が清和綜合建物様の立場に立って各施工会社様との間に入り、技術面でのアドバイスや調整を重ねながら、工事が円滑に進むようサポートしました。

塩崎 圭由氏(以下、塩崎):専有部と共用部の施工会社にエレベーター工事会社を加えた3社と個別にやり取りしながら、当社だけで工事全体をコントロールするのは難しい面がありました。それが今回は三井不動産レジデンシャルリースさんに各社の間に入って工程や工事内容を取りまとめていただいたことで、当社の負担もかなり軽減できたと思います。

安藤:月1回の定例会に加えて分科会も設け、実質的にはほぼ隔週で協議を重ねました。既存建物の工事では、着工後に現場を確認して初めて分かることもあります。例えば外壁タイルは、足場を掛けて打診調査をしなければ補修数量を確定できません。また、漏水が疑われた箇所は詳しく調べた結果、原因が結露と分かり、断熱材を追加するなど現場の状況に応じて対策しています。

塩崎:リノベーションでは想定外のことも出てくるため、工事費の増減については定例会などでかなり細かく協議しました。それでも最終的に当初請負金額から約1%の増額で収まったのは、三井不動産レジデンシャルリースさんが各施工会社との調整を進めてくれたことも大きかったと思います。

「マーケットと対話する」リーシングで計画を上回る賃料へ

2025年11月頃、翌月末の竣工に先駆けてリーシングが始まった。今回は清和綜合建物の意向で全24戸を一斉に募集せず、先行住戸の反応を確かめながら、以降に募集する住戸の賃料を調整する「期分け募集」を採用。市場の反応を踏まえ、後続の募集住戸では当初設定から賃料を引き上げるなど、いわば「マーケットと対話する」ように最適な価格を探った。さらに価格設定だけでなく、入居検討者層の捉え方やアプローチにも工夫を重ねていく。

こうした諸施策の効果もあって、最上階の住戸では提案時の査定を上回る共益費込みの月額30万円超で成約。物件全体の総賃料も計画時の水準を約2割上回り、募集開始から約9カ月後の2026年8月には全24戸が満室となった。また、将来の賃料改定を見据えた清和綜合建物の意向を受けて、24戸中20戸を定期借家契約としている。

リビング・ダイニング

青木:募集では企画段階で想定した30~40代のファミリーやDINKSを中心に、田端の交通利便性や弊社の管理物件の入居者属性から法人需要も見込んでいました。実際に法人向けチャネルにも働き掛け、法人契約は10件に上ります。また、高額帯となった最上階では需要層をさらに広げて外国籍の方に強い仲介会社様にもアプローチするなど、多層的な需要開拓を進めた結果、高い稼働率を実現できました。

とはいえ、満室になればそれで終わりではありません。現在は高速インターネットへのニーズが高まっていますが、5年後、10年後にはまた新たな付加価値が求められるはずです。だからこそ時代とともに変化する入居者ニーズや市場動向を弊社の管理物件を通じて捉え、今後もオーナー様の資産価値や収益性の向上につながる提案を続けていきたいと考えています。

毛塚:建築費の上昇が続き、新築では事業採算を確保しにくくなる中、約2年前の段階でリノベーションを具体化できたことは、結果的に時代を少し先取りできたように思います。三井不動産レジデンシャルリースさんの専門的な知見を生かして既存資産の価値を引き出せたことは、今回のプロジェクトの大きな成果でした。

現在、三井不動産レジデンシャルリースさんには当物件も含めて5物件の賃貸運営をお願いしています。これらの保有物件の価値向上はもちろん、新たな物件取得やさまざまな案件について情報交換を重ねながら、次の事業機会につなげていきたいですね。

青木:近年建築費が高騰する中で、新築だけではなく既存物件のリノベーションで価値を高めるケースも増えています。大切なのは、立地や建物の特性、事業条件を踏まえながら、どの方法で価値向上を図るのが最適かを見極めることです。三井不動産レジデンシャルリースでは「賃貸総合企画」を通じて、新築かリノベーションかという選択肢も含め、それぞれの物件に適した活用方法を今後も提案していきたいと考えています。

今回のプロジェクトで最適解を導き出した、清和綜合建物と三井不動産レジデンシャルリースの知見と選択。プロフェッショナル同士の協働が既存の建物からも新たな可能性を引き出し、さらなる価値創出へとつながっていく。

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