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資産価値を最大化する。賃貸マンションの「良いデザイン」とは?

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2026.04.22

住まい探しにおける尺度として、これまでは「駅からの距離」「築年数」「広さ」といった客観的な指標が重視されてきた。しかし、住まいに対する感度が飛躍的に高まる中、これらの指標だけが「選ばれる理由」ではなくなってきている。

そうした変化を受けて、賃貸マンションの資産価値最大化のため、今改めて重要になっているのが、「デザイン」だ。立地の弱点を克服し、築年数が経過しても色褪せない価値を創出する空間づくりとは、どのようなものか。

賃貸マンションの事業企画をリードする三井不動産レジデンシャルリース株式会社の宗形 昌記と、三井不動産グループにおいて空間デザイン・設計を行う三井デザインテック株式会社の張谷 一人氏と春日 珠美氏。プロジェクトで協働した経験もある3名が、これからの賃貸マンションに求められる「良いデザイン」について語り合った。

右から
三井デザインテック株式会社 クリエイティブデザインセンター 春日 珠美 氏 
三井デザインテック株式会社 ライフスタイル事業本部 張谷 一人 氏 
三井不動産レジデンシャルリース株式会社 プロジェクト営業本部 宗形 昌記(取材当時)

デザインでスペック競争から脱却する

──まずは、現在の賃貸マンション市場において「デザイン」が果たす役割について、皆さんのお考えをお聞かせください。

宗形 昌記(以下、宗形):かつての賃貸マンション市場では、デザインは「プラスアルファの要素」に過ぎませんでした。しかし、現在は駅からの距離や築年数といった、その物件が抱えている弱みを払拭する、あるいは補完するための強力な「武器」になっていると感じています。

例えば、駅から徒歩で15分以上かかり、さらに坂の上にあるような、立地条件としては決して有利とは言えない物件であっても、優れた空間演出によってエリア内でもトップクラスの賃料水準を実現できるケースがあります。ご入居者様が「多少不便でもここに住みたい」と思えるだけの体験価値を創出できるからです。

──賃貸マンションの空間演出が直接的に収益性や資産価値に寄与するということですね。

宗形:その通りです。また、空間演出が優れた物件は、建物竣工時から時間が経っても賃料が下がりづらいという特徴があります。1980年代から1990年代に建てられた物件でも、今なお高いステータスを維持し、新築当時と遜色ない賃料水準で稼働し続けている例は少なくありません。長く愛され続ける住まいのしつらえが、賃料水準を高めて空室リスクも抑え、長期的に資産価値を守ることにつながるのです。

春日 珠美 氏(以下、春日):空間をスタイリングする立場からも、住まいのスタイルは「色や柄の綺麗さ」だけを追う時代ではなくなったと感じています。お住まいの方々の特性やその地域のアイデンティティを反映させ、ご入居者様にその空間への「愛着」を持っていただけるかどうか。良質な趣(おもむき)を空間のつくり手として体現していくことが、賃貸マンションにおける私たちの大きな役割になっています。

賃貸マンションに求められる良質な趣(おもむき)の定義とは

──空間演出の重要性が増す中で、現在のトレンドについてはどう捉えていますか。

春日:現在は「非日常感」や「上質感」が重要なキーワードです。自宅が単なる寝る場所ではなく、仕事やリフレッシュの場へと変わっています。ホテルのようなノイズレスで素材感の際立つ空間や、自然とのつながりを感じさせる「バイオフィリックな空間づくり」(※)などが注目されています。

※    建物や住空間に「自然の要素」を積極的に取り入れることで、居住者の健康性・快適性・心理的な安心感を高める設計手法。今回の取材場所である三井デザインテック本社内のSUNROOMというスペースでも、グリーンを多く配置し、バイオフィリックな空間づくりを意識している。

一方で、流行を追いすぎないことも大切です。賃貸マンションは数十年という長いスパンで運用されるものです。私たちはアーティストではなく、ご入居者様にとってのベストな解を導き出す存在です。プロとして、流行に左右されにくい「普遍的な軸」も持って住まいのしつらえを構築しなければなりません。

宗形:賃貸マンション経営の観点からも、同感です。見栄えが良いだけの機能は、将来的にメンテナンスコストを増大させ、オーナー様の負担になることがあります。使いやすさと洗練された住まいのしつらえが高度に融合していること、そして将来においても「あの時代の古いもの」と思われない普遍的な価値があること。それが賃貸マンションにおける「良質な趣(おもむき)」の在り方だと考えています。

データとクリエイティブの融合が「良質な趣(おもむき)」を生む

──「良質な趣(おもむき)」を実現するために、三井不動産レジデンシャルリースと三井デザインテックはどのようなパートナーシップを築いているのでしょうか。協働することで生まれる相乗効果について教えてください。

春日:一番の強みは、やはり「根拠のあるデザイン」をご提案できる点に尽きます。私たちは、三井不動産レジデンシャルリースから膨大なリーシングデータにもとづく入居希望者層の志向性や、実際にお住まいのご入居者様からは、どのような共用施設が喜ばれているかといった運用実績のフィードバックをしていただいています。これらが私たちのクリエイティブにおける重要な拠り所となっているのです。

宗形:そうですね。私たちが共同でプロジェクトに取り組む際、三井不動産レジデンシャルリースが賃貸管理会社ならではの目線で分析した「このエリアにはどのようなご入居者層がお住まいで、どのようなライフスタイルを志向していらっしゃるのか」といった、想定入居者層の特性を伝えます。2社間におけるこの情報共有が、スムーズだというメリットがあると思います。

張谷 一人 氏(以下、張谷):そうしていただいた情報を、三井デザインテックが空間のストーリーとして仕上げていく。そうすることで、空間演出に「意味」が生まれます。例えば六本木と世田谷では、住む方の感性も求められる機能も異なりますよね。それらを単なる感覚ではなく、データに基づいた知見として備えているのが私たちの強みです。だからこそ、賃貸マンションオーナー様に対しても「なぜこのデザインなのか」を論理的に語ることができ、それが確かな安心感に繋がっているのだと感じます。

大規模リノベーションに見る、資産価値最大化のプロセス

──実際に皆さんが手がけているプロジェクトについて教えてください。

宗形:ある法人オーナー様が所有する老朽化した不動産を、賃貸マンションにリノベーションする計画があります。当初、オーナー様は投資をせずに現状のままで、建物の古さも考慮した賃料水準で貸し出すことを想定されていましたが、それでは収益性が低くなってしまいます。そこで「大規模リノベーションによって投資に見合う賃料上昇を実現させて、資産価値を最大化させましょう」とご提案したのが始まりでした。

張谷:元の建物は非常に規模が大きい物件でした。それだけの規模感があるなら、街の歴史を継承した、新たなシンボルになるような風格ある邸宅を目指すべきだと考え、物語性のある提案を練り上げました。

春日:このプロジェクトで大切にしたのは、過去を消し去るのではなく、既存の建物が持つ「重厚さ」や「歴史の重み」というリノベーションならではの良さを最大限に活かすことです。その上で現代的な高級感を加え、その二つが美しく混ざり合うような絶妙なバランスを追求しました。古いことが弱点ではなく、むしろ「この建物にしかない唯一無二の魅力」であるというストーリーを描き、建物の特性を前向きな価値へと転換させていく。それが結果としてオーナー様に喜んでいただけたのだと思います。

──リーシングにはどのような効果を期待しているのでしょうか。

宗形:現在リーシングに向けて準備を進めている段階ですが、賃料水準は当初の計画に対して大幅な上昇を実現できる見込みです。建物が持つ本来のポテンシャルを空間演出によって引き出したことで、オーナー様からも「ここまで見違えるのか」と驚きと感謝の言葉をいただきました。まさに、優れた空間演出による大規模リノベーションが、確かな投資行動として機能し、長期的な資産価値を守る針路を示した好例と言えます。

これからの賃貸マンションにおけるデザインの役割と展望

──最後に、賃貸マンションにおけるデザインへの展望・抱負やオーナー様へのアドバイスをお願いします。

春日:情報社会の中、賃貸入居者様の住まいに対する感度は私たちが思っている以上に飛躍的に高まっています。「価値」を言葉でお伝えするのは難しい部分があるからこそ、実際に住む方に喜ばれる空間演出で体現していかなければなりません。魅力ある良質な趣(おもむき)の空間を、日本中に広げていきたいと考えています。

張谷:これからは既存の物件をどう活かしていくかが問われる時代です。ただ「とんがったデザイン」をすればいいわけではなく、使い勝手を含めて長く「良い」と思ってもらえるものを作ること。そういう志を持って取り組むことが、結果として社会資本としての賃貸マンションストックの質を高め、充実させていくことに繋がると信じています。

宗形:オーナー様からは「コストをかけずに見栄えを良くしてほしい」というオーダーをいただくことも多いのですが、根拠にもとづいた確かな計画とすることによって、初期投資が多少増えても、将来的には、高い賃料の維持や稼働率という形でリターンが得られます。デザインを単なるコストや装飾と考えるのではなく、資産価値を高めるための強力な武器として是非ご検討・ご活用いただければと思います。

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