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グランドレベル 田中元子氏に聞く、賃貸マンションの付加価値を上げる「1階づくり」

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2026.08.17

住まい探しにおける尺度として、これまでは「駅からの距離」「築年数」「広さ」といった指標が重視されてきた。しかし、昨今ではサービスやコミュニティなどソフト面の重要性も高まっており、新たなアプローチとして建物の「1階」を活用する事例が注目を集めている。

「1階づくりはまちづくり」をコンセプトに掲げる株式会社グランドレベルは、2018年にオープンしたランドリー付きのカフェ「喫茶ランドリー」(墨田区)で注目を浴びた。2024年には子育て応援賃貸マンション「ネウボーノ菊川Ⅱ」の1階にシェア型カフェ「オラ・ネウボーノ」を設計・プロデュースするなど、賃貸住宅の1階活用の新たな可能性を示している。

今回は、株式会社グランドレベル代表取締役社長の田中元子氏に、これまでの取り組みを振り返っていただきながら、1階空間の活用が賃貸物件の付加価値をどう高めるのか伺った。

田中 元子(たなか もとこ)氏
株式会社グランドレベル 代表取締役社長。建築コミュニケーターとして建築関係のメディアづくりに従事後、2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーとする株式会社グランドレベルを設立。施設やまちづくりの設計デザインを全国で手がける。

「1階づくりはまちづくり」の思想。人の気配が不動産価値を決める

――まず、グランドレベル社が掲げる「1階づくりはまちづくり」というコンセプトが生まれた背景や、現在のまちづくりに対する課題感についてお聞かせください。

田中 元子(以下、田中):最近、人が増えているはずなのに、活気が感じられない街をよく見かけます。例えば、ここ「喫茶ランドリー」のある墨田区の両国・森下エリアは、かつて倉庫や工場のあった場所がマンションに建て替わり、人は増えています。しかし、喫茶ランドリーができる以前は、「人が立ち止まる場所」がなかったせいで、街を歩く人の姿もまばらでした。

私はこの状態を、不動産の価値そのものを下げる要因になり得ると考えています。人の生活を感じられないエリアには、借主も積極的に住みたいと思いません。そこで、私は街の1階、建物の1階部に「人が立ち止まる場所」が必要だと考え、その専門会社としてグランドレベルを立ち上げました。

――田中さんは「マイパブリック」(私的な公共)という概念も提唱されていますが、これはどのような概念でしょうか。

田中:「マイパブリック」とは、行政や企業が作る公共施設とは異なり、個人による私的なアクションを通じてパブリックな関係性を生み出す営みです。

これは、私が趣味で専用の屋台を持ち、街中で通行人に無料でコーヒーを振る舞う「フリーコーヒー」という遊びをしていたことが原体験になっています。街角で知らない人たちと交流する中で、自分自身で小さな公共を手作りしているように感じ、それを「マイパブリック」と呼ぶようになりました。

マイパブリックの存在は、街を楽しくし、地域の価値を向上させてくれます。行政が提供する公民館や図書館などの公共空間は、多くの人の税金で運営されているため、誰からも文句を言われないように“角の立たない”空間になりがちです。一方で、個人から滲み出る個性を発揮した関係の方が、誰かにとっては魅力的な場所になり得ると思うのです。

【事例】喫茶ランドリーが実証したマイパブリックの価値

「喫茶ランドリー」外観

――本日お話をお伺いしているこの場所、「喫茶ランドリー」は、まさにそのマイパブリックを体現する場ですね。ここでは実際にどのようなことが起きているのでしょうか。

田中:ここ「喫茶ランドリー」は、「どんなひとにも自由なくつろぎ」をコンセプトにした、「私設公民館」のような場所です。地域の人々はカフェやランドリーをお客さんとして利用するだけでなく、店のスペースをレンタルして「こんな風に使ってみたい」という思いを実現することもできます。

例えば、おじいちゃんがマジックショーを開いたり、ボイストレーニングに通う子どもたちが発表会で歌ったり。親戚一同を集めてパーティーをしたり、みんなで集まってパンづくりをしたりといった使われ方もしています。都心の一般家庭では手狭で実現できない、ちょっとした活動の場所に対するリアルなニーズがあることが分かりました。

喫茶ランドリーで日々行われているイベントは、私たちが仕掛けたものではなく、地域の多様な方々から自然発生的に生まれているのです。

喫茶メニューだけでなく、雑貨や古着も販売されている

――なぜ「ランドリー(洗濯機)」を併設しているのでしょうか。

田中:以前デンマークのコペンハーゲンで、「The Laundromat Café」というお店を訪れました。

喫茶店に洗濯機がおまけのように置いてあるお店でしたが、そこにはおじいさん、おばあさんも、若い人も、一つの空間に自然に居合わせている風景がありました。日本では、行政のサービスでも民間ビジネスでも「お年寄りのため」「子育てママのため」と属性によって空間を分けてしまいがちです。しかし、洗濯機が一つあるだけでそれを利用するために年齢や性別を問わず多様な人々が訪れ、同じ空間に共存できる。

こうした多様性を受け入れる空間づくりを、日本でも実現したいと考えたのが、ランドリーを併設した理由です。

【事例】賃貸マンション1階のシェアキッチン「オラ・ネウボーノ」

「オラ・ネウボーノ」店内

――もう一つの事例として、子育て応援賃貸マンション「ネウボーノ菊川Ⅱ」の1階でプロデュースされた「オラ・ネウボーノ」について教えてください。

田中:オーナーの株式会社萬富さんは、江戸時代から代々受け継いできた土地を管理されている地主さんです。

萬富さんが企画した子育て特化型のマンション「ネウボーノ菊川」は非常に人気を集めました。ただ、館内でサービスが完結しているため、外から見ると普通のマンションと変わりません。そこで2棟目の「ネウボーノ菊川Ⅱ」を建てるにあたり、「もっと1階を地域や街に開かれたものにしたい」と、グランドレベルに相談いただいたのです。

私たちが提案したシェアキッチン「オラ・ネウボーノ」では、バー、焼き菓子などのベーカリー、軽飲食など、さまざまな「お店をやりたい」という思いに応える3種類のキッチンを、時間単位で貸し出しています。

結果的に「オラ・ネウボーノ」はマンションの住民や地域の方だけでなく、地域外の方からもさまざまな用途で利用されています。チョコレートの専門家がホットチョコレートなどを販売することもあれば、YouTubeを中心に音楽活動しているクリエイターの方がお店に立たれることもありました。

この場所を作ったときには思いもよらなかったような、ユニークなお店が出るのでおもしろいですね。

――オーナーさんにとっては、どのような価値が生まれているのでしょうか。

田中:「オラ・ネウボーノ」は、オーナーの萬富さんとの共同運営です。利用者が増えることはオーナーの収益に直結しますし、何より住民と地域の人が交流し、街が活気づいている状況をとても喜んでくださっています。

萬富さんは、非常に長期的な視点でまちづくりを考えています。子育てが孤独になりがちな現代において、1階を街に開くことで多様な人と知り合うきっかけを作る。それが結果的にエリアを活気づけ、長期的な不動産価値の維持・向上につながる。2~3年での投資回収を目指す短期的な経営ではなく、街に根差したリアリティのある経営姿勢が素晴らしいと感じました。

賃貸マンション事業者が取り入れるべき「1階づくり」の知恵

――最後に、今後の賃貸マンション業界において、オーナーや事業者が取り入れるべき視点についてアドバイスをお願いします。

田中:賃貸マンションを企画するとき、つい「誰が住むか分からないから、誰もが文句を言わないノーマルなものにしておこう」と考えてしまいがちですよね。

しかし今は、多様な価値観を受け入れ、少し癖のあるものを面白がる人が増えています。物件を借りるときも、「駅から近い」「専有面積が広い」といった基準だけではなく、「自分が面白いと思えるか」という物件の個性が、選ぶ基準になっています。

大家さんも欠点を隠してノーマライズするのではなく、思い切って個性を出す方が、かえって競争力やチャンスにつながる時代ではないでしょうか 。

――個性を出すことは、エリアの魅力そのものを高めることにも貢献しますね。

田中:おっしゃる通りです。どの街であっても「ここで暮らすのはすごく楽しい」と住人が誇りを持てることが地域全体の価値の向上につながります。

そのために、日常の体験や交流を生み出す「1階づくり」が重要なのです。1階を魅力的な空間にすることは、長期的な地域や不動産の価値向上にも結びついていくはずです。

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